本記事は、獣医師国家試験の出題基準を一から解説しようとする一大プロジェクトの「感覚器系」編です。
体性感覚
「体性感覚」とは、内臓の情報を伝える「内臓感覚(自律神経)」”以外”の、皮膚や粘膜、筋、腱、骨膜、関節包などに存在するさまざまな受容器からの感覚をいいます。「体性感覚」には視覚や聴覚などの「特殊感覚」も体性感覚に含まれます。
副交感神経や体性神経を介して伝えられる「内臓痛覚」も関連する重要な感覚の一つです。
体性感覚には、以下のような種類があります。
体性感覚
末梢神経系の役割
ほとんど全身からの「体性感覚」を伝える感覚細胞の細胞体は「脊髄」の「後根神経節」に、顔面からの「体性感覚」は「三叉神経節」を介して脳に伝えられます。
「神経節」に存在する感覚細胞は、末梢と中枢に軸索を伸ばし、受容した感覚情報を脊髄や脳幹に伝達します。
これらを「第一次 感覚ニューロン」と呼びます。
体性感覚に関わる受容器
皮膚には様々な感覚受容器が分布し、
あらゆる機械的刺激(圧力や変形)を電気信号に変換し、中枢に送っています。

毛がない部分は感覚が鋭敏なんだよ!
体性感覚の受容器
01:侵害受容器
組織が損傷した際に反応する受容器で、「侵害受容器」と呼ばれます。「痛覚」に関わります。鋭い痛みを伝達するのは「Aδ線維」を、鈍痛の場合は「C線維」を用いて中枢に送られます。
一般的に受容できる刺激は「機械刺激」「熱刺激」「化学刺激」になります。

加えられた刺激が「侵害受容器」の閾値を越えると「痛覚」として知覚されるよ!
発痛物質の「ブラジキニン」は直接的に「侵害受容器」を刺激し痛みを引き起こします。
「プロスタグランジン」は直接的な発痛効果は弱いですが、「ブラジキニン」による発痛作用を増強し、さらなる炎症の惹起に関与しています。

NSAIDsが痛みを緩和するのは、プロスタグランジンの生成が抑制されるからだよね!
内臓に分布する「侵害受容器」は、密度が少なく局在が不明瞭であり、熱刺激には反応しません。内臓に対する化学刺激・機械刺激は「自律神経」を介して中枢に伝わるようです。
02:温度受容器
皮膚の「温度感覚」は「温覚」と「冷覚」に分かれます。
「温度受容器」は特殊な構造を持たず、「自由神経終末」に分布します。
「温度受容器」は「化学刺激」によっても引き起こされ、たとえば「メントール」では「冷覚」が「カプサイシン」によって「温覚」が知覚されます。
興味深いことに、「化学刺激」による「温度感覚」は皮膚の温度は 変化しません!

冷たいように、あるいは熱いように感じているだけなんだね!
03:機械受容器
皮膚では「触・圧覚」「振動覚」が
筋肉では「固有感覚」を受容して中枢に送っています。
触・圧覚
「触覚」は皮膚や毛を触れたときの感覚、
「圧覚」は皮膚を軽く圧迫したときの感覚をいいます。

弱い機械刺激に反応し、ある程度受容器も共通しているから「触・圧覚」と表現されるよ!
「触・圧覚」に関する受容器
触覚や圧覚を感じる受容器の密度は、体の部位によって大きく異なります。
特に敏感な部位では受容器の密度が高く、逆に鈍感な部位では受容器の密度が低くなります。
振動感覚
「振動感覚」は
「マイスナー小体」「パチニ小体」が担います。
固有感覚
「固有感覚」は自分の手や足がどこにあるか認識する「位置感覚」、関節の角度や速度を認識する「動きの感覚」、物を持ったときの重さや筋の負担を感じる「力・重さの感覚」などがあります。
具体的な受容器は「筋紡錘」「ゴルジ腱 器官」「関節受容器」で行われます。
機械受容器 まとめ
| 触・圧覚 | 振動覚 | 温度覚 | 痛覚 痒覚 | |
|---|---|---|---|---|
| 自由神経終末 | ー | ● | ● | ● |
| マイスナー小体 | ● | ● | ー | ー |
| パチニ小体 | ● | ● | ー | ー |
| ルフィニ小体 | ● | ー | ー | ー |
| メルケル盤 | ● | ー | ー | ー |
特殊感覚
「特殊感覚」は
「視覚」「聴覚」「平衡覚」「嗅覚」「味覚」の5種類をいいます。
これらの感覚情報を受け入れる受容体には「化学的 受容器」と「機械 受容器」などがあり、「嗅覚」や「味覚」は「化学 受容器」で、「聴覚」「平衡覚」は「機械 受容器」です。
「視覚」は、「光 受容器」になります。
特殊感覚の受容器
視覚器
「眼球」はほぼ球形で、光を感じる「網膜」と、そこに光を集める透明な「レンズ系」を持っています。「角膜」・「眼房水」「水晶体」・「硝子体」は「中間透光体」と呼ばれます。
眼球の基本構造
「眼球」は外側から順に「強膜」「脈絡膜」「網膜」の3層構造になっています。
「強膜」は”白目”の部分にあたり、前方では透明な「角膜」に移行します。
「脈絡膜」は血管と色素が豊富で、網膜への栄養供給と、余分な光の吸収を担っています。前方に向かって「毛様体」や「虹彩」を形成し、この3つを合わせて「ブドウ膜」と呼びます。
「網膜」は「視細胞」が並ぶ層があり、光を受容する場所になります。網膜内の神経線維は「視神経 乳頭」に集まり、眼球の外に出ます。「視神経乳頭」には視細胞がなく「盲点」となる。
また「網膜」には「黄斑」と呼ばれる黄褐色の領域があり、その中央部には「中心窩」があります。中心窩は網膜が薄く、視力が最も良い部分になります。

「黄斑」と「盲点」を混同しないでね!
毛様体と虹彩の働き
「脈絡膜」の前端部が肥厚した部分を「毛様体」といいます。
この「毛様体」には「水晶体」の厚みを調節する 毛様体筋 が含まれ、「毛様体小帯(チン小帯)」によって 水晶体 とつながっています。
さらに前内方に向かって「虹彩」が伸び、「瞳孔 括約筋」と「瞳孔 散大筋」の2つの平滑筋によって眼球内に入る光の量を調節しています。
「虹彩」によってできる光の通り道を「瞳孔」をいいます。

眼の色は「虹彩」の色だよ!
僕もキレイな青い目が欲しかったなぁ
眼房水と眼内圧
「角膜」と「水晶体」の間は「眼房」とよばれ「眼房水」で満たされています。
「毛様体」上皮では血漿の濾液から「眼房水」がつくられ「後 眼房」へと分泌します。その後「前 眼房」を経て「前眼房 隅角(虹彩と角膜の境)」にある「強膜 静脈洞(シュレム管)」 から排出されます。

「角膜」「水晶体」には血管がないから、眼房水から栄養供給されているよ!
もし、「眼房水」の流れが滞ると眼内圧が上昇し、緑内障 を引き起こすことがあります。
眼球の筋肉構造
眼球を動かすための「外眼筋」は
上下左右にまっすぐ付着する筋肉「上 直筋」「下 直筋」「内 直筋」「外 直筋」と、
上下に付着している斜筋「上 斜筋」「下 斜筋」があります。
「4 滑車神経」は「上 斜筋」を
「6 外転神経」は「外 直筋」、それ以外の4つの外眼筋は「3 動眼神経」が支配しています。
「3 動眼神経」の出力は外眼筋を動かす(体性)運動神経だけでなく、副交感神経としての出力作用ももっており「毛様体神経節」でニューロンを乗り換えて「瞳孔括約筋」に作用します。

「対光反射」は動眼神経の経路も必要なんだよ!確認だけど、対光反射の中枢は「中脳」だったね!
網膜の構造
「網膜」は複数の層構造を作り、また複数の細胞によって中継されながら光を受容します。
最も内側、「硝子体」に近い方から
「神経線維層」「神経線維層」「神経節細胞層」「内網状層」「内顆粒層」「外網状層」「外顆粒層」「杆体・錐体層」「色素上皮層」となります。

光を受容するのは視細胞は、外側に存在するんだよ!
視細胞が最外層ではないのもポイントだね!
「内 顆粒層」には「双極細胞」「水平細胞」「アクマリン細胞」の細胞体が存在し、「外・内 網状層」ではそれぞれの細胞間でシナプスが形成されています。
「外 顆粒層」には「視細胞」の細胞体 が存在し、外側に向かって光を受容する「視細胞」の外節 が存在しています。外節の構造から「杆体」と「錐体」の2種類に分けられます。
光の受容
乳頭 まとめ
「中間透光体」を通ってきた光が「視 細胞」に当たると
「レチナール」の立体構造が変化し【シス → トランス】、「視 物質」が活性化します。
それに伴って連鎖的にGタンパク質の「トランスデューシン」、
続いて「ホスホジエステラーゼ(PDE)」が活性化し、「cGMP」が分解されます。
「cGMP」が減少すると「cGMP依存性Na+チャネル」が閉鎖し、結果として「視細胞」が過分極を引き起こします。

「cGMP」はセカンドメッセンジャーとして機能しているよ!
上記のメカニズムは、「杆体」でも「錐体」でも生じます。
「視 神経」からの神経伝達物質は「グルタミン酸」の放出量は、過分極時に少なく、脱分極時は多くなります。「グルタミン酸」は一般的には興奮性の神経伝達物質ですが、「双極細胞」へのシナプスでは抑制性に作用します。
要するに光があたって”過”分極した際に、「双極細胞」が活性化し「神経節 細胞」へ伝達されます。
「視細胞」→「双極細胞」→「神経節 細胞」へとシナプスをしています。
杆体と錐体の違い
「錐体」と「杆体」は光に対する感受性が異なる点にあり、「錐体」は明所視に働き、「杆体」は暗所視に働きます。
「錐体」には3種類の「視 細胞(オプシン)」が存在し、赤、青、緑のいずれかの光の波長に反応します。

「錐体」のいずれかの「視 物質」が遺伝的に欠損すると、いわゆる色盲になるよ!
「杆体」では活性化された視物質の寿命が長いため、1分子の活性化された視物質はより多くの「トランスデューシン」を活性化します。このため暗所の僅かな光量でも視覚を維持できます。

「杆体」は中心窩以外の周辺部に存在し、数も圧倒的に多いよ!
神経系
「神経節 細胞」の軸索は、「網膜」の各部位から集められ「視神経 乳頭」で合流して「2 視 神経」として眼球を出ます。その後、「視神経」は「視交叉」を経由して視床の「外側 膝状体」に至ります。
「外側膝状体」からは、同側の一次視覚野に伝達されます。

一次視覚野は後頭葉にあったよね!
「視交叉」を交差するかどうかは、眼球の左と右で異なり、
”眼球”の左側からの軸索(左側の視野)は”左”の「外側膝状体」に、右側からの軸索は”右”の「外側膝状体」に伝えられます。
要するに、眼球1つからでた視神経束(視索)は2つに分かれ、一方はそのまま、もう一方は交差して反対側の「外側膝状体」に向かいます。

ちょっと頭を使うけど、実は「水晶体」によって像は上下左右反転しているから、左側で受容した光刺激は、目で見た物体の右側から届いたことになるよ!
対光反射
「対光反射」の経路は、「網膜」→「視交叉」→「視蓋 前核」→「エディンガー・ウェストファル核(E・W核)」→「毛様体神経節」を経由して「瞳孔括約筋」に作用します。
上記のように光刺激は「視交叉」で左右に分けられるので、光刺激を受けた同側の瞳孔が収縮する「直接 対光反射」と、反対側の瞳孔が収縮する「間接 対光反射」が生じます。

「毛様体神経節」は動眼神経の通り道だね!!!
「3 動眼神経」に障害があると、同側の直接対光反射は消えます。反対側の「間接対光反射」は残ります。眼球から出たばかりの「2 視神経」全域が障害されると、直接・間接どちらの「対光反射」も消失します。
聴覚器
外部からの音は振動として外耳から「鼓膜」を介して中耳の「耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)」に伝わり、最終的に「蝸牛器官」によって電気刺激に変えられて脳で認識されています。

「中耳筋」が収縮すると、音の伝達を抑制できるんだよ!
「蝸牛 器官」は3層構造になっており
「01:前庭 階」「02:中心 階」「03:鼓室 階」に分かれています。
「02:中心 階」は、「01:前庭 階」との境界の「ライスナー膜」、「03:鼓室 階」との境界の「基底膜」で囲まれた「膜迷路」をいい「蝸牛管」とも呼ばれます。「02:中心 階」は「内 リンパ液」が満たされています。
一方で「01:前庭 階」と「03:鼓室 階」は、
骨迷路と膜迷路で隔たれた領域をいい、「蝸牛 孔」で交通しています。
コルチ器
「コルチ器」はこの「基底膜」上に存在し、聴覚を受容する「有毛細胞」と、複数の「支持細胞」で構成されます。
「有毛細胞」の頂部を覆いかぶさるように蝸牛器官の全長にわたって「蓋膜」が存在し、「基底膜」の振動を有毛細胞頂部に生えた「感覚毛」に伝えます。
神経系
「”内” 有毛細胞」で受け取った侵害刺激は、「蝸牛神経」によって伝わり、最終的に「前庭神経」と合わさって「8 内耳神経」として脳幹へと向かいます。

一方「外 有毛細胞」は、「聴覚」の感度を調節しているよ!
蝸牛器官と振動数
「耳小骨」から伝わった振動は「卵円窓」を介して「01:前庭 階」へと伝わり、蝸牛の上部にある「蝸牛 孔」で「03:鼓室 階」と交通し「正円窓」に終わります。
「01:前庭 階」と「03:鼓室 階」は「外 リンパ液」で満たされています。

「蝸牛」の場所によって受容される音の振動数が異なるんだよ!ちなみに下端ほど高音域が、上端ほど低音域がされるよ!
平衡覚器
耳は音を受容するだけでなく、動物が適切な姿勢を保つための「前庭器官」をもちます。
「前庭器官」は「蝸牛」と同じく「内耳」に存在し、
頭の回転(角加速度)を受容する「半規管」と、
直線加速度を受容する「卵形嚢」と「球形嚢」が存在しています。
「半規管」と「球形嚢・卵形嚢」には「内 リンパ液」で満たされた「膜迷路」があり、その内部に存在する感覚上皮が「前庭感覚」に大きく関わっています。
半規管
「半規管」は3つの管状の構造で、いずれも「卵形嚢」に開口して、それに接続する前には膨らみ(膨大部)を作ります。
この「膨大部」の膜迷路内には「有毛細胞」「支持細胞」により作られた「膨大部稜」と呼ばれる感覚上皮があり、その上には「クプラ」と呼ばれるゼラチン様物質が存在しています。
頭の回転により、膜迷路内を流れる「内 リンパ液」が移動することにによって間接的に「クプラ」が動き、「有毛細胞」に活動電位が生じます。

「半規管」は3つあるから「三半規管」と呼ばれるよ!
卵形嚢と球形嚢
「半規管」と同様に、
「卵形嚢」「球形嚢」の膜迷路内には「有毛細胞」「支持細胞」により作られた感覚上皮「平衡斑」があり、その上には「耳石」が存在しています。
直線的な動きが起こると、
内部に満たされた「内 リンパ液」が移動し、間接的に「耳石」が動くことによって、活動電位が生じます。
神経
このようにして受け取った侵害刺激は、「前庭神経」によって伝わり、最終的に「蝸牛神経」と合わさって「8 内耳神経」として脳幹へと向かいます。
聴覚 vs 平衡覚
| 感覚 | 神経接合 組織 | 刺激 |
|---|---|---|
| 聴覚 | コルチ器 | 蓋膜 |
| 平衡覚 | 半規管 膨大部 | クプラ |
| 卵形嚢 球形嚢 | 耳石 |
嗅覚器
嗅覚を受容するのは鼻腔の上部に存在している「嗅 粘膜」に存在している「嗅 細胞」になります。
「嗅 細胞」は神経細胞で、樹状突起を「嗅 粘膜」側に伸ばし数十本の「嗅 線毛」を伸ばしています。この「嗅 線毛」にはGタンパク質共役型受容体が存在し、ここに揮発性の物質が受容されます。
基底膜側に軸索を伸ばしています。軸索は「篩骨」の穴(篩板孔)を通過して「嗅球」に達しシナプスを作ります。
一部は「視床」を介して「前頭葉」に投射し、一部は「大脳辺縁系」に投射しています。

匂いと情動が関連しているのは、辺縁系に投射しているからなんだね!
味覚器
乳頭 まとめ
味覚には「塩味」「酸味」「甘味」「苦味」「旨味」があり、この5つの組み合わせで、物質そのものの”味”が決まります。
味を受容するのは「味蕾」に存在する「味 細胞」になります。

ちなみに「辛味」は痛覚だよ!辛さと同時に熱さを感じるのも当然だよね!!!
「味蕾」は舌面にある3種類の「茸状 乳頭」「葉状 乳頭」「有郭 乳頭」があります。
舌の前 2 / 3 は「7 顔面神経」によって、舌の後ろ 1 / 3 は「9 舌咽神経」が支配して「脳幹」の「弧束核」に伝わります。そこからは「視床」を介して「前頭葉」に投射されます。

実は「味蕾」は舌だけでなく軟口蓋、咽頭、喉頭にも分布してるよ!
猫は甘味受容体を持たないため、甘みを知覚できません。


