本記事は、獣医師国家試験の出題基準を一から解説しようとする一大プロジェクトの「外皮」編です。
皮膚
「皮膚」は「表皮」「真皮」「皮下組織」の3つに分かれます。
表皮
「表皮」は表層から
「01:角質層」「02:透明層(淡明層)」「03:顆粒層」「04:有棘層」「05:基底層」の5層構造になっています。
最も深い層の「05:基底層」の細胞が増殖して徐々に表層側に押し上げられ、脱核・角化して「01:角質層」をつくり、いずれ剥離・脱落します。
「04:有棘層」の細胞は、お互いに突起を伸ばしつながっています。このような構造を「接着斑」といい「デスモグレイン」という接着タンパク質で結合しています。「天疱瘡」はこの接着タンパク質を自己抗体が攻撃するため、「棘 融解細胞」が出現したり、水疱が生じたりします。
ちなみに「類 天疱瘡」は、基底膜と基底層の細胞を接着する「ヘミデスモゾーム」を攻撃します。
「03:顆粒層」はケラトヒアリン顆粒が含まれます。「02:透明層(淡明層)」は厚い皮膚でみられ、顆粒層と角質層の間にみられます。
表皮の「メラニン細胞」は、「04:有棘層」と「05:基底層」の細胞に自身のメラニン顆粒を分配して、紫外線から基底の細胞を守っています。
表皮内には、免疫細胞であるマクロファージが存在し「ランゲルハンス細胞」と呼ばれます。
真皮
「真皮」は、表皮に近い「乳頭層」と深部の「網状層」に分けられ、皮膚の主体になります。

「真皮」は「表皮」の数倍〜数10倍ほど厚いんだよ!
特に表皮に近い「乳頭層」には、一定の間隔で表皮に向かって突出した「真皮 乳頭」が存在し、結合組織は疎な代わりに、毛細血管と知覚神経終末と細胞成分が豊富に存在します。このような構造によって、表皮と真皮の境界が凸凹になっています。
深部の「網状層」は、「密性 結合組織」でその中に「毛包」「脂腺」「汗腺」などの皮膚付属器だけでなく「血管・リンパ管」「神経」、多くの細胞成分が分布しています。

ステロイドで皮膚が薄くなるのは「真皮」のコラーゲン合成を阻害するからだよ!
皮下組織
「皮下組織」は「疎性 結合組織」で作られ「皮下脂肪」がたくさん存在しています。
この「皮下脂肪」は皮膚のクッション性をもたらすだけでなく、体内の熱を外に逃さないための熱の絶縁体として「体温調節」にも関与しています。
皮膚の知覚装置
角質器
蹄
「蹄」は「蹄骨(末節骨)」を覆う角質器で、表皮にあたる「蹄 鞘」、真皮にあたる「蹄 真皮」、および皮下組織からなります。
「蹄 鞘」が狭義の蹄であり、外周部分の「01:蹄壁」の上縁には皮膚と蹄の境界である「蹄冠 縁」が、下縁には蹄底縁となります。蹄底部の外周面は「01:蹄壁」が分布し「白帯」を堺にして「02:蹄底」に接しています。さらに、蹄踵部にはクサビ状の「03:蹄叉(ウマのみ!)」が認められます。
「03:蹄叉」の後部には「04:蹄球」があります。

「蹄冠」は蹄に移行する前の、帯状に少し隆起した部分だよ!
「蹄 真皮」は、「01:蹄壁」を除いて「真皮 乳頭」を形成し、表皮側に入り込んでいます。この構造のおかげで、「蹄 真皮」は「蹄 鞘」と密に接着し、栄養を与えています。

皮膚にもこのような構造があったよね!!!
「01:蹄壁」と「02:蹄底」には、皮下脂肪が乏しく、その真皮がそのまま「蹄骨(末節骨)」の骨膜に結合します。「03:蹄叉(ウマのみ!)」や「04:蹄球」の皮下組織は、脂肪組織が豊富に存在しクッション性が増しています。これを「蹠枕」といいます。
反芻類や豚は、馬とは異なり、2つの「主蹄」と2つの「副 蹄」に分類されます。「主 蹄」は、第3・4指(趾)、「副蹄」は第2・5指(趾)の末節骨を覆います。また「03:蹄叉」をもちません。

カラーアトラスには、「蹄冠」が「蹄 鞘」の最外層になっているね、、、「蹄冠」が一般的だと
爪
「爪」も蹄と同様に「末節骨」を覆う角質器です。その構造は表皮にあたる「爪 鞘」と、表皮にあたる「爪 真皮」、および皮下組織になります。
「爪 鞘」は、「爪壁」と「爪底」に分けられ、両者は皮下組織に乏しく、その真皮が「末節骨」に直接結合しています。

皮膚と同じく、真皮まで切っちゃうと血が出てくるよ!
肉球
「肉球」はいわゆるクッションとして歩行時の衝撃を吸収し、物理的な衝撃から肢端を保護しています。爪先から「指球(趾球)」「掌球(足底球)」「手根球(足根球)」の3種類があります。
犬と猫には「手根球」はありますが、足根球がありません。

「距」は馬の距毛に埋まっているよ!
指球(趾球) | 掌球(足底球) | 手根球(足根球) | |
---|---|---|---|
ウシ・ブタ | ● 蹄球 | ー | ー |
ウマ | ● 蹄球 | ▲ 距 | ▲ 附蝉 |
イヌ・ネコ | ● | ● | ● 足底球(−) |
被毛
「毛」は、「毛母基細胞」の増殖によって伸び続けます。
「毛」は、皮膚に埋もれている「毛根」と皮膚から出ている「毛幹」の2つの部位から構成されます。毛根を包む「毛包」には平清筋からなる「立毛筋」が付着しており、交感神経刺激によって収縮します。
「毛」は、「毛 小皮」「毛 皮質」「毛 髄質」の3層構造になっており、皮膚に埋もれている部分を「毛根」、皮膚から出ている部分を「毛幹」といいます。

「毛 小皮」はいわゆるキューティクルだよ!
「毛根」は表皮由来の「上皮性 毛包」と、真皮由来の「結合組織性 毛包」よって包まれています。「上皮性 毛包」は直接毛根を包み、「内根 鞘」「外根 鞘」とその最外層には「硝子膜(基底膜)」が存在しています。
触毛
上記は「被毛」の説明ですが、毛の特殊なものとして「触毛」があります。
「触毛」は被毛に比べて 太く 長く 硬い毛で、「結合組織性 毛包」の内輪層と外縦層との間に「毛包 血洞」を形成するのが特徴です。
この「毛包 血洞」によって触毛への機械的刺激が増幅され神経終末に伝えられるため、感覚にも敏感になっています。
ほとんどが顔面(顔面触毛)に認められますが、ネコでは手根(手根触毛)にも存在しています。いわゆるヒゲは、すべてが「触毛」になっています。
角
反芻動物では、
前頭骨の「角突起」が角質で覆われて「角(洞角)」を作ります。
皮膚のように皮下組織はなく、真皮がそのまま骨に結合しています。
皮脂腺
脂腺
「脂腺」は「毛包」に開口し、毛や表皮をコーティングする脂質を産生しています。「脂腺」は「全 分泌」によって細胞もろとも分泌物になります。
汗腺
汗腺の種類
「エックリン汗腺」は毛包に関係なく直接皮膚表面に開口しています。水溶性のサラッとした汗を分泌し、つまり毛の生えていない肉球・鼻先・蹄叉に分布しています。「エックリン汗腺」は漏出分泌(開口分泌)で分泌されます。

緊張している犬や猫では、足裏がびっちょりだよね、、、
「アポクリン汗腺」は毛包に開口し、ほぼ全身に存在します。タンパク質成分を含んだ汗によって、動物特有の匂い、フェロモンにも関与しています。「アポクリン汗腺」は「離出分泌」で細胞質の一部と共に分泌されます。
変形腺
「皮膚」の特定の部位には、皮膚腺が分化してフェロモンを含み、なわばりの主張や繁殖に活用されている「変形腺」が存在しています。各動物種によって、様々な「変形腺」を持っています。(以下参照)
多くの家畜に共通している「変形腺」は、「乳腺」と「耳道腺」、「瞼板腺(マイボーム腺)」です。
また肉食動物では「肛門周囲腺(脂腺)」「肛門傍洞腺(アポクリン汗腺)」が特徴的です。「肛門周囲腺(脂腺)」は、細胞質が広く核が明瞭な肝細胞に類似した特徴を持っています。

「肛門傍洞腺」の分泌物は「肛門傍洞」に貯められるよ!これを肛門”嚢”って呼ぶよね!
変形腺 まとめ
動物 | 名称 | 特徴 |
---|---|---|
ウシ | 鼻唇 腺 | エックリン汗腺 |
蹄球 腺 | エックリン汗腺 | |
ウマ | 蹠枕 腺 | エックリン汗腺 |
会陰 腺 | アポクリン汗腺 | |
ブタ | 吻鼻 腺 | エックリン汗腺 |
手根 腺 | エックリン汗腺 | |
包皮 腺 | 脂腺 アポクリン汗腺 | |
オトガイ 腺 | 脂腺 アポクリン汗腺 | |
ヒツジ | 鼻 腺 | エックリン汗腺 |
鼠径 洞腺 | 脂腺 アポクリン汗腺 | |
指間 洞腺 | 脂腺 アポクリン汗腺 | |
趾間 洞腺 | 脂腺 アポクリン汗腺 | |
眼窩下 洞腺 | 脂腺 アポクリン汗腺 | |
ヤギ | 角腺 | アポクリン汗腺 |
イヌ | 尾腺 | 脂腺 |
肉球 腺 | エックリン汗腺 | |
ネコ | 口周囲 腺 | 脂腺 |
オトガイ下 腺 | 脂腺 |
乳腺
「乳腺」は特殊化した汗腺であり、
「乳 静脈」から作られる分泌物「乳」は新生子に栄養を与えます。

「乳 静脈」は「浅 前 腹壁 静脈」と「浅 後 腹壁 静脈」が吻合したものだよ!
「乳」を作る「腺 小葉」は、まとまって「乳腺 体」を作ります。「乳腺 体」からの導管は「乳管」となって「乳管洞」に連絡し、最終的に「乳頭管」となって「乳頭口」に開口します。
これらをまとめて「乳区」といいます。
1つの「乳頭」に、
1つの「乳頭口」が開口している場合(牛)もあれば、
複数の「乳頭口」が開口している場合もあり、それぞれは独立した「乳区」に通じています。

牛の場合は、4つの「乳頭」にそれぞれ一つずつ「乳頭口」が開口しているから、「乳区」の数も4つだね!
「乳腺」は体幹の筋膜から続く結合組織から支えられており、これを「乳房 保定装置」といいます。反芻類や馬では発達しています。
「乳房 保定装置」は内側板と外側板に分けられ、左右の内側板は癒合して「乳房 堤靭帯」と呼ばれます。

「乳房 堤靭帯」は上下には仕切ってないから注意してよ!
乳頭の数
動物 | 対 | 計 |
---|---|---|
ウシ | 2対 | 4個 |
ヤギ・ヒツジ・ウマ | 1対 | 2個 |
ブタ | 7対 | 14個 |
イヌ | 5対 | 10個 |
ネコ | 4対 | 8個 |
最後に
「外皮」の次は「免疫」です!こちらからどうぞ!