【獣医師国家試験】性成熟と生殖周期

まとめ

本記事は、獣医師国家試験の出題基準を一から解説しようとする一大プロジェクト・獣医学の基本的事項の「Ⅱ生殖と行動」編の第2弾です。

雄・雌の性成熟

動物は出生後、一定の期間を経て「春機発動」を迎え生殖器が徐々に発達(重量の増加)し、最終的に雌では妊娠可能、雄では妊娠させうる「性成熟」に達します。

一般的には、性成熟に達し妊娠はできても、母体が分娩・授乳を許容できないケースがあるため、母体の成長を待って繁殖に用います。繁殖に用いられる時期を「繁殖 供用 開始 適齢」といいます。

生殖周期

哺乳動物は、性成熟をしてから繁殖寿命が来るまでの間、なにかしらの「繁殖活動」を繰り返しています。これを「生殖 周期」といいます。

この繁殖活動中に「妊娠」→「分娩」→「授乳」が起こる生殖周期を「完全 生殖周期」といい、「妊娠」が起きらない生殖周期を「不完全 生殖周期」といいます。

不完全 生殖周期」は「発情」や「排卵」、「月経(霊長類)」などのイベントが周期的に繰り返され、「発情周期」「排卵周期」「月経周期」と呼ばれています。

Nekoyasiki
Nekoyasiki

「生殖周期」は便利な言葉だね!

分かりやすいように人を例に考えると、
10代後半で性成熟し、50代くらいで閉経に至るまでの多くの期間は「不完全 生殖周期」を繰り返し、たった1〜2回の妊娠によって「完全 生殖周期」が訪れます。

季節繁殖

上記のような「生殖 周期」が1年中繰り返される場合を「周年繁殖」と呼び、例えば、牛・豚・犬は「周年 繁殖動物」といいます。

一方で特定の季節にのみ「生殖 周期」が繰り返される場合を「季節 繁殖」といいます。

日照時間が長くなる春・夏に「生殖 周期」が繰り返される馬や猫は「長日 繁殖動物」、日照が短くなる秋・冬に「生殖 周期」が繰り返される羊・山羊は「短日 繁殖動物」といいます。

発情周期〈性周期〉

性成熟を迎えると「発情」→「排卵」が周期的に繰り返されます。これを「発情周期(性周期)」といいます。

「発情」から始まって「排卵」→「黄体形成」→「黄体退行」が周期的に繰り返されることを「完全 発情周期」といい、「発情」のあとに「交尾刺激」がないと黄体が形成されない場合は「不完全 発情周期」といいます。

Nekoyasiki
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「発情」から「黄体退行」までには、発情周期が2回必要だよ!以下の図をみてね!

「完全 発情周期」の場合、卵胞の成熟から排卵までの「卵胞期」と、排卵によって形成された黄体が退行するまでの「黄体期」の2期に分かれています。あるいは「発情 前期」「発情期」「発情 後期」「発情 休止期」の4期にも分類されます。

Nekoyasiki
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「黄体期」は、おおよそ「発情 休止期」に相当するよ!

犬の生殖周期は季節によらず1年を通して行われる「周年繁殖周期」の動物ですが、1回の「発情周期」が他の動物と比べて突出して長いため、1年に1〜2回しか発情が起こりません。そのため犬は「単発情 動物」と呼ばれます。

犬は「黄体期(発情休止期)」が長すぎるため1回の発情周期が長く、その長い「黄体期」によって「偽妊娠」が起こることがあります。

犬と比較して他の動物は「発情周期」が短いため、1年に何度も発情が起こり「多 発情動物」と呼ばれます。

動物発情周期の間隔発情
持続時間
発情 → 排卵
時間
LHサージ → 排卵
時間
21日15時間 程度28時間 程度28時間 程度
21日7日 程度5日 程度2日 程度
21日50時間 程度40時間 程度40時間 程度
17日30時間 程度26時間 程度26時間 程度
山羊20日1日 程度24時間 程度21時間 程度
6ヶ月9日 程度4〜24日2〜3日
17日9日 程度交尾排卵36時間 程度
Nekoyasiki
Nekoyasiki

LHサージが起こってから、排卵するまで意外と時間がかかるんだよね!

単発情動物の「犬」は例外として、
発情の持続時間、発情開始から排卵までの時間、LHサージから排卵までの時間、いずれでも「馬」が最も長い動物になります。(家畜の中で最長)

また、発情から排卵までは数日で終わることが多いので発情周期のほとんどは「黄体期(発情休止期)」になります。

発情周期中の生殖器の変化

卵巣の変化

発情周期の中では、「卵胞ウェーブ」と呼ばれる現象が2〜3回起こります。

「卵胞ウェーブ」では複数の小さな卵胞が一斉に育ち始め、その中から1つが「主席卵胞」として選ばれて発育を続けます。主席卵胞は直径1.5〜2mmずつ毎日大きくなり、最終的に成熟して排卵されます。

初回の「卵胞ウェーブ」時に成熟した主席卵胞は、黄体の「プロジェステロン」によって成熟が抑えられ、途中で閉鎖してしまいます。

Nekoyasiki
Nekoyasiki

つまり、最初の「卵胞ウェーブ」のときは「黄体期」なんだね!

黄体が退行すると、プロジェステロンによる排卵抑制を解除されるため最後の「卵胞ウェーブ」で「主席卵胞」が排卵まで至ります。排卵後はその内腔は「赤体(出血体)」を経て「黄体」が形成されます。

この黄体は排卵から約48時間で急速に成長し、約1.5cmほどの大きさに。直腸から触ると、やわらかく弾力のある組織として確認できます。もし妊娠しなければ、発情後16〜18日頃に退行が始まり、急速に縮小して消えていきます。退行後に残る小さな白色の組織が「白体」と呼ばれます。

Nekoyasiki
Nekoyasiki

この「白体(瘢痕組織)」が多く残るため、経産牛の方が卵巣は大きくなるよ!

卵管

「発情期」では排卵された卵や精子を輸送するため
「エストロジェン」の作用により卵管の運動性が増加します。

排卵が終わり黄体が形成される「黄体期」には、「プロジェステロン」によって受精後の胚が移動して子宮まで届けられます。

子宮

「発情期」には子宮内膜は「エストロジェン」の作用により増殖・充血・浮腫し、子宮平滑筋も収縮します。

「黄体期」になるプロジェステロンの作用により、子宮内膜の増殖が抑制される代わりに間質が増殖・平滑筋は弛緩して妊娠に向けて機能的に分化していきます。

子宮頸管

「発情期」には子宮頸管は充血・腫脹し、外子宮口は弛緩して精子を受け入れます。また、粘液の分泌も亢進します。発情初期の粘液は水分が多く、牽糸性(糸をひく)が高く外陰部から漏出します。

Nekoyasiki
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スライドグラスに塗抹して乾燥させると「シダ状結晶」が観察できるよ!

発情期後は、子宮頸管の充血・腫脹が急速に消失すると同時に粘液も減少していき、その代わりに「血様粘液」や「好中球」の割合が高くなっていきます。

「黄体期」になると「外子宮口」は閉鎖し、子宮内外の行来ができなくなります。

発情周期中のホルモンの変化

発情周期の卵巣には「卵胞」と「黄体」がどちらも存在しています。

Nekoyasiki
Nekoyasiki

この黄体は、前回の発情周期に起こった排卵によって作られたものだよ!

主要なホルモン

  • GnRH:性腺刺激ホルモン放出ホルモン
  • FSH:卵胞刺激ホルモン
  • LH:黄体形成ホルモン
  • エストロジェン
  • プロジェステロン
  • インヒビン

エストロジェン

「エストロジェン(E)」は卵胞から分泌され、成熟するほど分泌量は増加します。そのため主席卵胞が成熟するに従って、その全体的な分泌量は増加します。

一般的に「E」は、負のフィードバックによって「視床下部 – 下垂体 – 卵巣」系に対して抑制性に働き、下垂体からの「FSH」や「LH」の分泌を抑制します。

卵胞が分泌する「E」は自身の細胞膜の「FSH」受容体を増加させるため、負のフィードバックによって「FSH」分泌が低下した場合であっても、主席卵胞は感度良く反応し成熟します。

一方で小さな卵胞は「E」の分泌が少ないので、「FSH」への感受性が乏しく閉鎖していくことになります。

発情周期の末期になると、黄体が退行すると急速に主席卵胞が大きくなり、それに伴って「E」分泌も急激に上昇します。その影響は視床下部に正に働き(正のフィードバック)「GnRHサージ」に引き続き、「LHサージ」「FSHサージ」が起こります。

プロジェステロン

「プロジェステロン(P)」は黄体から分泌されます。

「P」も「E」と同様に、負のフィードバックによって「視床下部 – 下垂体 – 卵巣」系に対して抑制性に働き、視床下部あるいは下垂体からの「サージ」の発生を抑制しています。

Nekoyasiki
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負のフィードバックは、
あくまで出過ぎないように調節しているだけで、分泌量をゼロにするわけではないよ!

これを臨床的に応用した「膣内 留置型 P徐放剤(CIDR)」が現場で使われています。

これを留置している間は「排卵」が起こりませんが、抜去によってP濃度が急降下し、あたかも黄体が退行したような疑似的な状況を作ることで「排卵」が促されます。

この処置は「排卵」を促すだけでなく、人為的に発情周期を合わせる(同期化)するためにも行われます。

Nekoyasiki
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発情周期を同期化できれば、人工授精を全頭一気に行うことができるね!効率向上のために必須な技術なわけだ!

GnRH

「GnRH」は、数時間に1回の間隔で間欠的(パルス状)に分泌されています。

このようなパルス状の分泌刺激によって、下垂体も同調し「LH」や「FSH」の分泌が促されます。

「LH」も血中の半減期が短いため、パルス状に分泌され「LHパルス」と呼ばれます。一方で「FSH」の場合は、GnRHやLHと比較して血中半減期が長いため、LHほどの血中濃度の律動的な高まりは顕著ではありません。

一般的にこのような「GnRH」のパルスは、
下位ホルモンによる負のフィードバックから独立しています。

Nekoyasiki
Nekoyasiki

負のフィードバックは、GnRHやLH・FSHの過剰分泌を抑制しているんだね!

FSH:卵胞刺激ホルモン

「FSH」の役割は、卵胞を発育させることにあります。

主席卵胞が閉鎖あるいは排卵して、新たな「卵胞ウェーブ」が始まるときに「E」の分泌低下に伴って「FSH」の分泌量が増えていきます。

これにより、多くの卵胞が同時に発育されていきます。

発育に伴って「E」の分泌が多くなるため、「FSH」の分泌量は減りますが、上述のように主席卵胞はその感受性が高いため分泌量は減っても発育が進みます。

黄体が退行し「P」からの負のフィードバックが解除され、同時に「エストロジェン」からの正のフィードバックによって「GnRHサージ」が起こることによって「FSHサージ」がおこります。

LH:黄体形成ホルモン

「LH」の作用は広く、卵胞の発育・排卵誘起・黄体の形成などがあります。

「LH」の分泌は「GnRH」のパルス状分泌に同調して「LHパルス」が生じており、排卵の前後でパルス頻度が上昇します

Nekoyasiki
Nekoyasiki

排卵前はPからの抑制がはずれて、排卵後にはEとPの分泌がどちらも最低になるから、LH(FSHも)の分泌は促されるよね!

排卵前には黄体退行による「P」の分泌低下によって「LHパルス」の頻度が増え、「FSH」とともに主席卵胞が成熟して多量の「E」分泌します。この「E」濃度の急激な上昇をきっかけに「GnRHサージ」→「LHサージ」「FSHサージ」が起こり、最終的に「排卵」が起こります。

一方排卵後には、「E」と「P」はいずれも低値になるため「LHパルス」の頻度が増え、卵胞の発育(FSHと共同)と黄体形成が進みます。

黄体期でも黄体の機能を維持するために「LHパルス」が起こっていますが、排卵前後に比べて、その分泌頻度は減少し血中濃度の振り幅(振幅)は大きくなります。

プロスタグランジンF2α:PGF2α

発情周期中に、妊娠が起こらなかった場合には「子宮」から「PGF2α(プロスタグランジンF2α)」というホルモンが分泌されます。

これが黄体に働きかけて退行させ、プロジェステロン濃度が急激に低下します。

インヒビン

卵胞からは「インヒビン」というホルモンも分泌され、これはFSHの分泌を抑える作用を持っています。限りある「FSH」を複数の卵胞が取り合いますが、「FSH」の感受性の問題で主席卵胞のみが成熟します。

「エストロジェン」と同様、「インヒビン」の分泌も卵胞が大きくなってくると分泌量が増加します。

発情期の性行動(雌)

メス牛は発情期になると「エストロジェン」の作用によって、性行動を示します。

発情の初期では、他の牛に乗駕する「マウンティング」がみられますが、次第に他の牛からの乗駕を許容します「スタンディング」。

さらに発情中の牛は、起立時間が増加し、しきりに動き回るようになります。(落ち着きがなくなる。)

Nekoyasiki
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だからメス牛に歩数計をつけるんだね!

特に、「スタンディング(被乗駕行動)」は、発情中のメスに特有の行動であり、発情確認の最も確実なサインとして人工授精のタイミング判断に活用されます。

観察される性行動は、
未経産牛の方が明瞭であり、同時に発情しているメスが周囲にいても明瞭になる傾向があります。

発情期の性行動(雄)

雄牛は雌の発情状態を観察して【監視 行動】、
発情前期の雌を見つけると寄り添う「同伴 行動」や「追尾行動」が見られるようになります。

また寄り添うだけでなく雌にちょっかいをかける【求愛 行動】によって、交配のタイミングを計らいます。

Nekoyasiki
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オス牛がいると、メスの排尿回数が増えるんだって!
メスの外陰部や尿を嗅いだときの「フレーメン」は有名だよね!

求愛行動の後「乗駕」によって交配を始めます。

性欲が強い個体は”物体”に対しても乗駕を行うため「擬牝台」を用いた「人工膣 法」によって精液の回収が可能です。

Nekoyasiki
Nekoyasiki

「乗駕」と「乗駕行動」は異なるよ!

自然排卵 vs 交尾排卵

「完全 発情周期」を持つ動物を「自然 排卵動物」、
「不完全 発情周期」を持つ動物を「交尾 排卵動物」といいます。

「交尾 排卵動物」では、黄体細胞がプロジェステロンを不活化する酵素を持っているため黄体が持続できずに終わります。

「交尾刺激」が加わると「プロラクチン」が分泌され、この酵素を阻害するためプロジェステロンが不活化されずに黄体が持続することで黄体期が出現します。

交配適期(牛)

卵子の最も受精・発生能が高いのは排卵後2時間程度であり、精子が受精能を獲得するのに6〜10時間程度かかることを考慮すると理論的には排卵の8時間以上前に「人工授精」する必要があります。

しかしながら排卵したタイミングを外見から判断できないため「発情行動」から適期を判断する必要があります。

上述のように発情から排卵まで大体1日かかるため、精子の受精能獲得から逆算すると、発情開始から半日後に「人工授精」の適期がきます。

このことから、午前AMに発情行動を発見した場合は午後PMに、午後PMに発見した場合は翌朝AMに「人工授精」を行う「AM/PM 法」が主流になっています。

発情しているのか不明の場合や、発情持続時間が短い場合あるため、何度も観察を行い、できるだけ正確に判断したうえで「人工授精」に移る必要があります。

最後に

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