本記事は、獣医師国家試験の出題基準を一から解説しようとする一大プロジェクト、獣医学の基本的事項の「Ⅱ生殖と行動」編の第4弾「妊娠と胎子発育」です。
胎子
「胚盤 胞」は、体を作る「内細胞 塊」と胎膜をつくる「栄養膜」からなります。
「内細胞 塊」はいずれ「外胚葉」「中胚葉」「内胚葉」に分化して、それぞれ別の組織・器官を作り、それらの組織や器官が形成される前を「胚」、それ以降から分娩までを「胎児」と呼びます。
胎水
「胎水」とは「羊水」と「尿膜水」をあわせたものをいいます。
胎児は「羊水」を飲み込んでいて、消化管で吸収し、尿として「尿膜水」を排出します。この羊水の摂取量が減少すると徐々に「羊水」が蓄積し「羊膜水腫」となります。
胎盤のナトリウム代謝異常によって
急速に「尿膜水」が増加する「尿膜水腫」では、原発性の胎児異常は認められません。
胎膜
「胎膜」とは、「羊膜」「絨毛膜」「尿膜」の3つをいいます。
羊膜
「羊膜」は胎児に最も近い胎膜で、
その内部の「羊膜腔」には羊膜細胞から分泌される「羊水」と「胎児」を入れています。

第二破水によって産道を通りやすくするのが羊水だね!
絨毛膜
「絨毛膜」は最も外側の「栄養膜」細胞に絨毛が生えた胎膜であり、母体側の子宮内膜と接して物質交換が行われる部分です。
尿膜
「尿膜」は「尿膜管」により胎児の膀胱とつなげ、その内部には「尿膜水」が満たされています。

尿膜水は、胎児からの”おしっこ”だよ!
胎子付属物
卵黄嚢
胎児の腸と「卵黄嚢」は「臍 腸管(卵黄嚢 腸管)」によって一時的に連絡しています。
高等哺乳類の「卵黄嚢」は鳥類のものとは異なり内部に卵黄を含まず、周囲の「尿膜」が拡大するのに伴って縮小し、「臍帯」ができる頃には痕跡的になっています。
上記のように、多くの家畜では「絨毛膜 卵黄嚢 胎盤」が一時的に機能したり「絨毛膜 尿膜 胎盤」と共存するケースもありますが、最終的には「絨毛膜 尿膜 胎盤」によって維持されます。
高等哺乳類の中でも「有蹄類」は「絨毛膜 卵黄嚢 胎盤」が最終的な胎盤として維持されます。
臍帯
「臍帯」は胎児の臍から胎盤へと連なる管で、
「臍 静脈」「臍 動脈」「尿膜管」の3つが含まれます。
胎児へ栄養を送るのは「臍 静脈」になります。
胎児 ↔ 母のやり取り
胎児は特殊な構造を介して母親から必要なものを得て、不要なものを排泄しています。
例えば、栄養や酸素は「臍 静脈」から供給され「肝臓」に一部分岐しながら「大静脈」に合流します。一方で不必要な老廃物は「大動脈」から左右1本ずつ分岐した「臍 動脈」を介して母(胎盤)へ排泄されます。
また胎児の膀胱に溜まった老廃物は「尿膜管」を介して「尿膜腔」へと続きます。
特に大動物(牛や馬)では、
「臍」からおしっこが漏れる「尿膜管遺残症」が有名です。

臍動脈なのか静脈なのか、
いっつも分からなくなるんだよね、、、

主役は胎児だよ!
胎児から出るのは「臍動脈」だし、胎児に入ってくるのは「臍静脈」だよね!
胎児循環 | 循環経路 | 遺残物 | 合併症 |
臍 動脈 | 胎児 → 母(胎盤) | 膀胱 円索 | ー |
臍 静脈 | 母(胎盤) → 胎児 | 肝 円索 | ー |
尿膜管 | 胎児(膀胱)→ 尿膜 | 尿膜管 | 尿膜管遺残症 |
胎児内の循環
胎児は外呼吸ができないため、「肺循環」へ血液を回す必要がありません。
血液は「動脈管」や「卵円孔」によって「右心系」→「左心系」へと移動し、「体循環」へ多くの血液を供給されます。
胎児循環 | 循環経路 | 遺残物 | 合併症 |
動脈管 | 肺動脈 → 大動脈 | 動脈管 索 | 動脈管開存症 |
卵円孔 | 右心房 → 左心房 | 卵円窩 | 卵円孔開存症 or 心房中隔欠損 |
胎盤
妊娠期間
「妊娠」の開始時期は、「胚」が着床した時点をいいますが、明確にそれを判定することは不可能ですよね。
牛では人工授精した日から計算して簡易的に分娩予定日をたてます。
妊娠 期間 | |
---|---|
馬 | 約 330 日 |
牛 | 約 280 日 |
羊・山羊 | 約 150 日 |
豚 | 約 114 日 |
犬・猫 | 約 63 日 |
単胎動物における多胎妊娠
牛・馬また人も「単胎動物」の場合、
1回の分娩によって1頭の赤ちゃんを出産しますが、まれに双子を生むことがあります。
上記のように、単胎動物が複数の胎児を妊娠することを「多胎妊娠」といいます。
牛の場合は、過剰排卵処置後に人工授精を行うことで沢山の受精卵を得る方法があることから、人為的に「多胎妊娠」状態をつくることは可能です。
牛の「多胎妊娠」、特にオスとメスの双胎妊娠の場合は、オスの血液がメス側に流入し「フリーマーチン」の可能性があります。このとき正常なメスが生まれる確率は10%を下回ります。
そのため「多胎妊娠」はさせずに、「胚移植」によって別々の母体から同じ遺伝的な背景をもった個体の分娩を行っています。
また馬の双胎妊娠の場合、それぞれの胎児が無事に産出できる割合は10%程度で、片方の流産・死産・虚弱児になるようです。そのため「減胎処置」によって、人為的に片側の胎児を用手で潰します。

馬では効率的に受胎させることを目的として排卵誘発剤を使うみたい!だから、双胎妊娠は結構な頻度で起こるんだってよ!
総合的に考えると、
家畜において「多胎妊娠」が非効率だと考えています。
多胎動物の同期・異期複妊娠
「同期 複妊娠」とは、2個以上排卵され、別々の精子が受精した結果起こります。「同期 複妊娠」においては「多排卵 動物」では一般的です。
一方で「異期 複妊娠」とは、
妊娠中に排卵・受精がおこり、日齢の異なる胎児を同時に妊娠していることをいいます。
人為的に作出することは可能みたいですが、妊娠中に排卵するのはレアケースなので一般的ではありません。
妊娠とホルモン
重要なホルモンは「エストロジェン(E)」と「プロジェステロン(P)」になります。妊娠期における2つのホルモン動態は、動物によって異なります。
一般的に、
妊娠初期は「P」が妊娠後期には「E」の分泌が亢進します。

「E」によって「オキシトシン」の感受性が上昇するんだったよね!
「オキシトシン」による子宮筋の収縮は、分娩に役立つもんね!
牛
牛の場合は、妊娠期は黄体が存在するため「P」濃度は高い濃度を維持していますが、分娩直前には「P」の濃度が低下し、反対に「E」濃度が上昇します。
「P」の多くは黄体からの分泌がほとんどですが、妊娠後期になると分泌が減少し、その代わりを「胎盤」や「副腎」が行います。

牛の場合「P」の分泌は完全に胎盤へと移行しないから、人為的に黄体を除去すると流産するよ!
馬
馬の場合は、妊娠初期には黄体からの「P」と、副黄体からの「P」、胎児胎盤からの「P」によって濃度が高くなります。
胎児胎盤からの「P」は、血中には出ずに胎盤局所に留まるため、胎児胎盤からの「P」に代替され始めると血中濃度は低下してきます。
妊娠中期〜後期にかけて「E」の濃度が高くなり、末期にかけて低下します。
分娩直前には「P代謝産物」濃度が急増します。
羊・山羊
同じ反芻類の牛と比較して、妊娠初期の「P」濃度が比較的低く妊娠期の経過に従って徐々に上昇していくのが特徴です。
羊は「P」の分泌が一定の期間の後、完全に胎盤からの分泌に移行するため、人為的な黄体除去を行っても分娩が可能です。一方で山羊と牛は、黄体からの分泌にほぼ依存しています。
豚
豚の場合は、妊娠初期に「P」が最も高濃度で、経過に伴って減少していきます。反対に「E」は分娩に向けて濃度が増加していきます。
犬
犬も豚と同様に、「P」の濃度は初期に高濃度で漸減していきます。
「E」は漸増にとどまり、他の動物種のような急増はありません。加えて、「E」のほとんどは胎盤ではなく「黄体」で賛成されるのが特徴的です。
母体の妊娠認識
胚が着床しなかった場合(復習)
胚が着床しなかった場合、
黄体由来の「オキシトシン」が子宮内膜に作用して、子宮内膜由来の「PGF2α」が産生されます。
この「PGF2α」が、黄体に働き黄体が退行して、次の発情が起こります。
胚が着床した場合
胚から分泌される「インターフェロン – τ( INF – τ)」は、子宮内膜の「オキシトシン」レセプターの合成を抑制します。
それによって、黄体由来の「オキシトシン」が子宮内膜に作用できず、結果として黄体退行させる「PGF2α」の産生が抑制されるため妊娠は継続します。
妊娠時における母体の変化
排卵前に分泌される「E」によって、子宮内膜の増殖・子宮腺の発達・が促されます。「E」の前感作を受けた状態で「P」が働き「着床前増殖」が起こります。
結果として、
子宮内膜が浮腫状になって、着床に備えます。
妊娠中は「P」によって子宮筋の収縮は抑制され、さらに「オキシトシン」の感受性も低下させます。また、「P」は子宮筋を肥大させます。(筋細胞の数は変化しない!)

「オキシトシン」は子宮筋を収縮させるもんね!
分娩期に近づくと「E」濃度がピークに達し、
それによって子宮頸が緩み、また「オキシトシン」の感受性を増加させます。
最後に
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