本記事は、獣医師国家試験の出題基準を一から解説しようとする一大プロジェクトです。
獣医学の基本的事項の「Ⅱ生殖と行動」編の第3弾です。
受精の条件〈精子の移送〉
精子は、膣内に放出されるので、
主なルートは「膣」「子宮」「卵管」となります。
子宮頸管の通過
受精に関与する精子は、「子宮頸管」の粘液中を
精子自身の運動性と雌性生殖道の運動によって徐々に移動して「子宮」に移動します。
この段階で「精子の選抜と精漿の除去」が行われます。
発情期の場合は「エストロジェン(E)」の影響で粘液が水っぽいため通過が比較的容易ですが、黄体期では分泌される粘稠性のある粘液によってトラップされ通過困難になります。

膣内射精によって素早く卵管に到達する精子は受精には関与しないんだって!
受精のためにはある程度の関門が必要なんだね!
子宮内の移送
子宮内の精子輸送は、
精子の運動性と「子宮筋」の収縮運動が主な原動力になります。
子宮筋の運動は、
交尾刺激により分泌される「オキシトシン」や精液中に含まれる「プロスタグランジン」が補助的に働きます。
子宮 – 卵管 接合部の通過
Eの影響によって「子宮 – 卵管 接合部」は腫脹し内腔が狭まっているため、卵管へ到達するのには精子自身の「強い運動性」が必要になります。
卵管内での「精子貯蔵と移送」
精子は卵管内、特に「卵管峡部」で一時的に貯蔵されます。
貯蔵されるためには精子頭部に含まれるのタンパク質と、卵管上皮の糖鎖が結合する必要があります。この結合は「排卵」に伴うホルモン変化によって解除されます。
それによって精子は「受精能」を獲得し、
運動性が再度活性化し、受精部位である「膨大部 – 狭部 接合部」へと移動します。
受精の条件〈卵子の移送〉
排卵卵子の卵管への取り込み
動物によって卵管への経路が少し異なります。
犬の場合は「卵巣嚢」がほぼ完全に「卵巣」を包んでいるため、その線毛運動によって卵管内に取り込まれます。
一方ほかの動物では、「卵管采」が「卵巣」表面を覆っており、排卵された卵子はそれに付着してその線毛運動によって卵管腹腔口へ移動し卵管に取り込まれます。
卵管内での移送
「卵管膨大部」に入った卵子は、
卵管上皮の繊毛運動と、卵管輪走筋の収縮運動や卵管液の流れによって「膨大部-峡部接合部」に移送されて停留します。
排卵卵子を取り囲んでいる「卵丘細胞」や「放線冠」も移送をサポートしています。
受精の過程
受精能 獲得
射出された「精子」は、「精巣上体」や「副生殖腺」から分泌される特殊なコーティング(受精能 破壊因子)を施された状態のため、そのままでは卵子に侵入することができません。
精子は「卵管 狭部」で一時的に貯留する間にその上皮細胞の線毛に結合して運動性を失い「排卵」を契機に、その結合が解除されることによって精子表面のコーティングが外され「受精能」を獲得します。
このように精子が受精能を獲得するためには、「受精能破壊因子」が除去される必要があります。

このコーティングが剥がれてから精漿に再びさらすと、受精能を失ってしまうんだって!つまり、受精能破壊因子は精子を安定化させていただね!
「精子」は受精能を獲得すると、尾部運動が活性化します。
先体反応
受精能を獲得した精子が、卵子の「透明帯」に達すると、その構成タンパク質と特異的に結合し、精子の「先体反応」が起こります。先体内の「酵素(ヒアルロニダーゼ・アクロシン)」が放出されて透明帯が薄くなり、活発な尾部運動によって「囲卵腔」に達します。
「精子 細胞膜」は「卵細胞膜」に接し、お互いの膜が融合することによって「卵 細胞質」内に取り込まれます。
多精拒否
精子が卵子に侵入すると「表層 顆粒」が囲卵腔に放出されることで、他の精子が透明帯に付着できなくなります。これを「透明帯 反応」や「卵黄遮断」といいます。
このような「多精拒否」機構によって、卵子内への複数のの精子の侵入は防がれます。

多数の精子が入った場合は、染色体が以上に多くなって死滅するよ!
前核形成と合体
精子侵入により卵子は「第二成熟分裂」を再開し、「雄性前核」と「雌性前核」が形成されます。前核は細胞中心に移動し、最終的に融合して「接合子」が形成され「受精」が完了します。
胚の発生と発育
受精によってできた「接合子」は、
「卵割(細胞分裂)」を繰り返しながら卵管を移動し、やがて子宮に到達します。
卵割
受精後の「接合子」は「胚」と呼ばれ、細胞分裂を繰り返しながら細胞の数が増加します。この過程は「卵割」と呼ばれ、体積の増加を伴わない細胞分裂になります。
「卵割」している最中、「胚」は卵管を下降し子宮へと向かいます。
「エストロジェン(E)」によって卵管の腫脹が認められますが、排卵後の「E」の低下、「プロジェステロン(P)」の上昇によって腫脹は軽減し、胚の輸送を容易にしています。
また黄体期の「P」によって、卵管の運動は抑制されます。
胚盤胞 の形成
「胚」が8〜16細胞になると子宮内に下降して「桑実胚」となります。
「桑実胚」の細胞数が増えてくると外見上小型にみえるため「収縮 桑実胚」と呼ばれ、内部に「胞状腔」を形成すると「胚盤胞」と呼ばれます。
外側をつくる細胞は「栄養膜」を、内部の細胞は「内細胞塊」を構成します。それぞれの細胞は「ギャップ結合」によって情報伝達を行い、特に「栄養膜」を作る細胞は「密着結合」が発達しています。
「内細胞塊」は徐々に盤状に広がることから「胚盤」を作ります。(胚盤胞の由来)

内細胞塊の最外層にある「栄養膜細胞」層は特に「ローバー層」と呼ばれるよ!
透明帯からの脱出
「透明帯」は、白血球からの攻撃を防ぎ、卵管内の移動を促進しています。
「胚盤胞」の成長とともに「透明帯」は菲薄化し、「透明帯」から脱出が起こります。これを「孵化(ハッチング)」と呼びます。

透明帯の作用を考えれば、子宮内では不要だもんね!
ハッチングによって「胚」は急速な発育が始まります。
胚の伸長 と 胚葉分化
牛・羊・豚では「胚」を構成する外層の「栄養外胚葉」が2極化して広がり、それぞれが細長く「伸長」します。
また「胚盤胞」に含まれる「内細胞塊」から「内胚葉」と「中胚葉」が出現し「原腸 胚」と呼ばれるようになります。

受精から着床に至るまで、「胚」に必要なエネルギーは「卵管」や「子宮腺」から得ているよ!
着床
胚の分布と移動
「胚」は子宮内で浮遊し、やがて定着します。
単胎動物では排卵側の子宮に定着し、多胎動物では排卵側から「等間隔」に並ぶように胚が移動する「スペーシング」が起こります。
馬の場合は「胚」が排卵側の反対側に移動する場合があり、これを「子宮内移行」と呼びます。

馬の子宮内移行は50%程度の発生率なんだって!
着床の形式
着床の形式 まとめ
「胚」の外側にある「栄養膜」が広く子宮内膜に接着した着床を「中心 着床」といい、家畜で一般的です。

「中心 着床」は子宮内膜に侵入しないので「表面 着床」ともいうよ!
マウスやラットなどのげっ歯類では、「胚」が子宮内膜に一部入り込む「偏心 着床」がみられます。霊長類では更に侵入して粘膜下の結合組織と結合し、完全に壁内に埋め込まれるため「壁内 着床」といいます。
また胚の「内細胞塊」は、
「中心 着床」で子宮間膜の反対側、「偏心 着床」で同側に着床します。
このような「定位」「配位」のメカニズムは明かされていません。
着床の過程と構造変化
着床の時期が近づくと、「子宮内膜」「子宮腺」「子宮筋」が肥大・増殖していきます。
胚の接着場所になるのは、反芻類では「子宮小丘」、それ以外の動物では接着する特定の部位はありません。
反芻動物においては、胚の「指状 突起」が子宮腺に侵入し不動化し、栄養膜細胞の「微絨毛」によって母体の子宮内膜細胞と密接に「相互嵌入咬合」します。
妊娠認識
「胚」は母体に対して「インターフェロンτ(INF -τ)」や「エストロジェン」を分泌し、自身の存在を伝えます。
このシステムによって、
黄体退行物質である「PGF2α」を抑制し黄体を維持することができます。
最後に
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