本記事は、獣医師国家試験の出題基準を一から解説しようとする一大プロジェクトです。
獣医学の基本的事項の「Ⅱ生殖と行動」編の第5弾です。
分娩発来の機序
はじめに胎児からのACTHによる大量の副腎皮質ホルモンが分泌されます。
それにより胎盤からのエストロジェン・プロスタグランジンF2α分泌が促進し、
卵巣からの「リラキシン」との協力を経て産道を弛緩させます。
また、エストロジェンの分泌促進により母体子宮筋のオキシトシン感受性が上昇し収縮運動が開始します。これが「陣痛」の原因です。
分娩によって子宮頸の拡張刺激されると、
更にオキシトシンが分泌され、
PGF2αと協力して子宮筋を収縮させます。
すべての始まりは胎児側の「副腎皮質ホルモン」であり、
産道の弛緩には「エストロジェン」「PGF2α」「リラキシン」が
子宮筋の収縮には「エストロジェン」「PGF2α」「オキシトシン」が関わっています。
分娩前徴
分娩の前兆には以下のような変化が見られます。
分娩前兆の変化
外陰部からの粘土の高い粘液は、尾に絡むため「尾がらみ」と呼ばれます。尾根部の両側が軟化し陥没するのは「リラキシン」の影響を受けて、周囲の筋肉や靭帯が弛緩することによって生じます。
産道
「産道」には
「骨部 産道」と「軟部 産道」に分けられます。
骨部は「骨盤」のがつくり、軟部は「子宮頸」「膣」「外陰部」をいいます。
分娩の経過
分娩は「01:開口期」→「02:産出期」→「03:後産期」の3つのフェーズに分かれています。
開口期〈第一期〉
「01:開口期」は分娩の為の準備期間で「産道の形成」が行われ「陣痛」が起こります。
産出期〈第二期〉
「02:産出期」は、子宮頸管が完全に開き、胎児が産出されるまでの期間です。胎児が産道を通ると母体から「オキシトシン」が分泌され、さらに子宮が収縮します。
尿膜の破水【一次破水】が起こったあと、可動性のある羊膜が産道から出てきます。これを「足胞」といいます。こうして足胞の露出のあと羊膜が破裂し【二次破水】いよいよ胎児が出てきます。

尿膜水は、胎児からの”おしっこ”だよ!
後産期〈第三期〉
「03:後産期」は、胎盤(や、その他諸々)が排出されるまでの期間です。12時間を越えても胎盤が排出されない場合を「胎盤停滞」といいます。
分娩後の生殖器の修復と発情回帰
分娩後から生殖器が正常な状態に回復するまでの期間を「産褥期」といいます。
子宮を収縮させる「PGF2α」「オキシトシン」は分娩後、数日かけて最高値に達し、排出物である「悪露」の排出を促します。「悪露」は胎水、出血、脱落組織に由来しているため褐色をしていますが、徐々に退色して、いずれ消失します。
子宮が修復されるのはおよそ1ヶ月後で、受胎が可能になるのはさらに2週間程度の時間がかかります。

繁殖検診(フレッシュチェック)を行ってから、人工授精をしようね!
子宮が修復される前に、卵胞ウェーブが開始され成熟卵胞が形成されます。
初回卵胞ウェーブの主席卵胞が排卵されるかどうかはマチマチで、加えて発情徴候も示さないことが多いため「生理的 空胎期間」と呼ばれています。肉牛では平均で2ヶ月、乳牛では平均して1ヶ月になります。
この期間をすぎると発情が回帰します。

ちなみに犬の悪露は緑色なんだよ!覚えておこう!
泌乳
新生児による「吸入行動」によって、
神経行性に視床下部に伝わり、「オキシトシン」が分泌されます。
このオキシトシンが乳腺を取り囲む「筋上皮細胞」を収縮させることで乳汁を外に押し出します。
分娩後の数日に分泌される「初乳」は、特に栄養価が高く固形分・タンパク質・脂質が多く含まれています。特にタンパク質には「免疫グロブリン」が含まれており、その後の免疫の付与に大きな影響を与えます。

子牛が初乳を吸収できるのは1日程度なので、できるだけ早く飲ませる必要があるんだよ!
新生子の生理
自発呼吸の開始
血管拡張作用がある「PGE2」は出生時に急激に低下し、「動脈管」や「臍動脈」が閉鎖します。
すると、酸素の供給がないために二酸化炭素分圧(PaCO2)の上昇し、延髄の「呼吸中枢」を刺激します。この刺激によって「自発呼吸」が促されます。
正常な分娩においては、出生後1分以内に自発呼吸が始まりますが、万が一始まらない場合は、早急に蘇生する必要があります。
蘇生術の例として、胎水や胎膜を気道から排除するために頭部を下にして振ったり、胸部をタオルで擦ることで呼吸を促すことがあります。

犬の帝王切開でも、同じような蘇生術をするよね!
循環の開始
肺呼吸が始まると、左房圧が上昇し「卵円孔」が閉鎖します。
万が一、呼吸・循環不全が生じると胎児血管から「PGE2」が放出され「動脈管」が開いた状態が持続してしまい血液循環量が低下してしまいます。

だから、素早く呼吸を確保する必要があるんだね!
体温の調整
出生後の温度環境は、母体内よりも当然低いため、体温は低下します。
低体温は「ノルアドレナリン」の放出により、血管の収縮により低酸素症を引き起こすため、適温下での分娩が勧められます。

胎水で濡れていることが多いから、拭き取ってあげるだけでも効果があるよ!