動物実験のデザイン
実験動物の選択
実験の目的によって用いる実験動物の「動物種」と、その「系統」、「品質」も考慮・選択する必要があります。
被験薬に催吐作用があるかを調べる毒性試験で、嘔吐しない動物を選択するのは実験デザインとして間違っているように、その実験に適した動物種やその系統を準備する必要があります。
さらに実験に適するできるだけ下等な実験動物を利用することも選択においては重要なポイントになります。
「品質」に関しては、
「遺伝学的 品質」「微生物学的 品質」の2つに分けられており、どちらも実験によって選択する必要があります。

遺伝的なばらつきがない「近交系」が適している実験もあれば、、遺伝的な多様性がある「クローズドコロニー」が適している場合もあるよね!
実験動物の福祉
「ラッセル」と「バーチ」は科学のために実験動物を利用する場合の理念と、動物実験における非人道な要素を排除するための方法として「3つのR」を提唱しました。
動物実験の国際原則3R
上記の3つに加え、「Responsibility」動物実験に対する責任や、「Review」第三者による審査を加える場合もあります。
加えて、実験動物に対して行われる処置が、どれほどの苦痛を与えるかを「SCAWの苦痛分類」によってカテゴリーA〜Eまで分類されています。カテゴリーEが最も苦痛を与える処置になります。

カテゴリーEと判断される処置は、どんなに重要な結果を得られた場合であっても日本を含む多くの国で禁止されているんだよ!
人道的エンドポイント
誘発された疾病や処置によって、一般的に実験動物は苦痛を抱えています。
その苦痛は実験の目的を達成するための最低限度な苦痛にするべきであり、過度な場合は実験の途中であっても実験を打ち切り安楽死処置をする必要があります。
このように、無用な苦痛を与えず早期に実験を中止するタイミングを「人道的 エンドポイント」といいます。
「人道的エンドポイント」の設定目安は実験処置によって異なりますが、カテゴリーDの処置が必要な実験では実験計画の段階で設定を考慮する必要があります。
動物実験計画
動物実験を実施する前に「動物実験計画書」を作成し、「動物実験 委員会」の審査に基づき機関長 (大学の学長等)の承認を受ける必要があります。実験の終了した場合は、その成果をまとめて「動物実験 結果報告書」を提出する必要があります。
「動物実験 委員会」は、各機関がそれぞれ設置します。
動物実験 技術
保定方法
「保定方法」はテキストで解説できないので、教科書のイラストを参考にしてください。
個体識別法
個体識別法
毛色で判断できない薄い実験動物に対しては「色素着色法」を用いることがあります。染色液である「ピクリン酸」は発がん性があるため一般的ではなく、現在では「塩基性フクシン( 赤色 )」や「メチレン青 ( 青色 )」を用いることがあります。
投与法
静脈内投与を行う場所は動物によって異なるので重要です。
実験動物への投与法
試料採取法
臓器の採取は深麻酔が必要です。
ラットやマウスなどの小動物から血液を多量に採取する場合は、麻酔下、開腹下で「後大静脈」から行います。麻酔下であれば、「心採血」も可能です。
一方で眼窩静脈叢からの採血は、眼底に障害を起こす可能性があるため推奨されていません。
採尿や採糞は「代謝ケージ」を用いると多量に採取が可能になります。
麻酔法・安楽死法
吸入麻酔としては「イソフルラン」や「セボフルラン」が、注射麻酔としては「メデトミジン」「ミダゾラム」「ブトルファノール」の3種混合麻酔が一般的です。
安楽死に用いられるのは「ペントバルタール」が一般的です。安楽死は、意識がない状態で殺処分する必要がある点に注意してください。
疾患モデル動物
疾患モデル動物の開発
疾患モデル動物はその作出方法から、
研究目的に適合するように人為的に作製された「実験発症モデル動物」、
遺伝的に病的な状態を自然発症する「自然発症モデル動物」、
遺伝子工学や発生工学によって作られた「人為的突然変異モデル」や「遺伝子改変モデル動物」に分類されます。
糖尿病モデル
糖尿病モデルには、「薬剤誘導」と「自然発症モデル」があります。
薬剤誘導
「アロキサン」「ストレプトゾトシン」などの薬剤によって糖尿病を誘導することが出来ます。

投与量や投与回数により軽度、中程度、高度の調整が可能らしいよ!
自然発症モデル
自然発症モデルには以下のようになっています。
自然発症モデル
高血圧モデル
高血圧モデルは「SHRラット」で決まりです。

高血圧(hypertension) なので、
その頭文字の「H」が名前に含まれているんだね!
免疫不全モデル
nu遺伝子の欠損によりT細胞機能欠損の免疫不全を起こしている無毛のモデルです。有名なのは「ヌードマウス」や「SCID マウス 」があります。

免疫不全だから、がん組織を移植できるわけね!
その他
他に重要なモデルとしては「NOG マウス」があります。
このモデルは「重度免疫不全モデル」です。こいつは、T細胞だけでなくB細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞、補体すらもありません。さらにマクロファージの機能低下という、あらゆる免疫機能が失われているモデルです。

これは糖尿病モデルの「NOD マウス」をアップグレードされたモデルだよ!名前が似てるから注意だよ!
動物実験の微生物コントロール
意義
動物実験においてコントロールが必要となる要因は、大きく分けて「遺伝要因」と「環境要因」があります。「環境要因」のなかでも特に微生物(細菌・ウイルス・寄生虫)は、常在で持っている宿主に害を加えないものから、致死的な健康被害を引き起こすものまで多種多様です。
微生物をコントロールすることは、
致死的な感染症を予防したり、実験動物の生産性を維持したり、また実験成績への悪影響や人への健康を被害を防ぐうえで重要な土台になります。
微生物コントロールの原理と方法
微生物をコントロールするために必要なことは、施設内での微生物の状況を知る「微生物モニタリング」と、外部からの侵入を防ぐ「検疫」です。
「微生物モニタリング」によって、汚染されていることが判明した場合は、感染動物の「淘汰」や「隔離」、施設を「消毒」をするのが最も一般的です。
微生物コントロールからみた実験動物の区分
上記のように、マウスやラットのような小型実験動物の場合の感染症コントロールは「検疫」や「微生物モニタリング 」による感染動物の発見と淘汰 (あるいは隔離)が主で ワクチンを使った予防や薬による治療は一般的にあまり行われない。
これに対して、サルやイヌなどの動物ではワクチン接種による予防や、投薬による治療も感染症コントロールの1選択肢として利用されています。


